メリークリスマスイヴ

久しぶりに真っ赤な口紅を付けた。

埃が被らぬようにサブのメイクポーチにしまっていた、勝負の口紅。

 

「スケートに行こう」

 

土曜日は昼間からやっているんだよ。

 

なんて誘われて、まんまとのっかった。

 

ふふん。

私はスケート得意なのよ。

 

たまたま、約束した土曜日が

クリスマスイブだっただけよ。

深い意味なんてないの。

 

真っ赤な口紅を塗りながら

頭の中で再生した。

口端から、はみ出ていない。

 

 

さて。

いくらスケートが得意だからといって

スカートで行ってもいいものか。

しかし、デニムで行くのもなぁ。

 

うんうん唸って。

ざっざっとタンスを開けて。

スカートとデニムとにらめっこ。

 

物干し竿にもたれる

グレーのタイツと目があった。

あ!今日は君と出かけたい。

グレーのタイツとスカートで今日は街に繰り出すぞ。

 

 

 

 

今日はここ最近で1番の寒さの日だった。

うへぇー。さむいよー。さむいさむい。

これから氷のリンクに行くのか本当に。

 

寒さに耐えきれず、逃げるように入ったコンビニでホットコーヒーを手に入れた。

もちろん。私のぶんだけよ。

 

 

あ。

フタに口をつけて飲むと

赤く勝負をかけた唇の

魔法が解けてしまいそう。

 

うんうんと考えた。

いや。飲むぞ。

背に腹はかえられぬ。

寒さに温かさはかえられぬ。

そうだそうだ。

 

 

待ち合わせ場所に着くと

「少し遅れる」

と連絡がきていた。

少しね。

ほー。

冷え切った紙コップだけが

手元に残っていた。

 

 

ふーん。遅れてくるのね。

家を出るのが遅れたのかな。

準備に時間かかったのかな。

少し寝坊したのかしら。

なんで朝起きれなかったのかな。

昨日の夜はなにをしていたのかな。

 

 

記者会見時のインタビュアーかのような質問と意味のない連想重ねる。

「昨日の夜」に私は関係ない。

 

でも「昨日の夜」に私が少しでもいてくれれば…。

 

 「おまたせ!」

 

前髪を乱して、待ち人たちはやって来た。

 

そう、友だちカップルである。

 友だち(彼氏)の部活が長引いて

待ち合わせに遅れて来たのだ。

友だち(彼女)は申し訳なさそうに

「ごめんね」を繰り返す。

 

私にとって

今日はなんでもない、冬の土曜日。

 

ちなみにスケートは

あまりの混雑に滑れなかった。

 

同じ向きに滑り続ける人並みは

まるで洗濯機。

 

メリークリスマスイヴ。